Phurba Tashi
4/24 @EBC
この日、夕食後、「シェルパ」という映画をDVDで見た。エベレストの遠征を題材にした映画で、2014年に、EBCにカメラを入れて撮影された。
シェルパのプルバが主演級で登場する。プルバの家族も出てくる。映画のポスターもプルバの写真だ。
ラッセルの隊にカメラを入れて撮影したので、ラッセルも沢山出てくるし、他にも私の知り合いのシェルパやクライマーが出ていた。
一般上映はなかったが、多少の賞をとったりもした。
そして、映画を見たことがなかった我々クライマーは、ラッセルに言って、夕食後に上映会をしてもらったのだ。
👟 👟 👟
映画を見終わった。しかし、映画は期待してた内容とは少し違って、いやな感じが残った。
我々が感想を話している間。ラッセルは静かに聞いていた。
そして、悲しい顔で語りだした。
👟 👟 👟
この映画の撮られた2014年は、アイスフォールの崩落によって、多数のシェルパが亡くなった年だ。そして登山をせずに、エベレストは閉山した。
映画の撮影隊としては、元々、企画をしていたエベレストの登頂というドラマは撮れなくなったが、代わりにシェルパの悲劇と、その後に起きたシェルパのストライキというドラマを撮影することができたのだ。そこがストーリーの核となった。
そして配役は、シェルパ代表がプルバなら、国際遠征隊のオペレーター代表はラッセルだ。
非常に単純に表現すると、国際遠征隊のオペレーターは、悪役のようだった。シェルパ族を安く使って、危険な仕事をさせ、暴利をむさぼっている西洋人に見える。
そして観客は、シェルパの頑張りに感動し、シェルパの家族たちの祈りに涙するのだ。
実際は、ラッセルはシェルパの安全をいつでも確保してきた。この映画の一年前の2013年には、アイスフォールの状態が悪く、登山隊の安全のために途中で遠征を中止した。
他の隊が中止をしないのに、単独で中止を決められるオペレーターはめったにいないだろう。自分の隊のクライマー達の説得は、本当に大変だったはずだ。
結局、2013年のアイスフォールは事故にならなかったが、2014年に事故がおきてしまった...
そして、2014年の時も、ラッセルの隊のシェルパは犠牲になっていない。
しかし映画では、CGでアイスフォールの崩壊に巻き込まれるシーンの後に、ラッセルの姿が映される。
観客には、ストーリーが出来上がる。奴の隊のシェルパが亡くなったのか!と。奴の無謀な指揮のせいじゃないか!と。
またシェルパを安い値段で使っているのは、実際はネパール人が指揮する遠征隊だ。
数年前から、ネパール人達もオペレーターとして、公募遠征隊を組むようになった。そして、安い費用を売りにして、参加クライマーを増やしている。
安い値段なので、当然、どこかにつけが回る。食品衛生、ギアの質、シェルパの数と質、そしてシェルパの給料。国際遠征隊に入れなかったシェルパが、他の隊に入るためには、妥協も求められる。
もっと複雑な背景もある。シェルパの所得は、他の部族の村々からするとうらやましい。貯蓄を作って、アメリカへ移住したシェルパも多い。そして今は、周りの続々とシェルパの村へ移住してきている。その内にシェルパの村でも、生粋のシェルパ族は少数派になるだろう。
こんな、ネパール国内の格差や搾取の構造は、単純なストーリーでは描けない。シェルパとは誰?という話まで広がってしまう。
シェルパなら誰でも知ってる事だ。映画の監督もそういうことはわかっているのだろう。
しかし、無事な生還を祈る家族の物語には、不釣り合いな複雑な背景。そんな現実を描いていたら、映画の枠に収まらない。
もちろん、ドキュメンタリーなので、基本的に、映画にうその場面はない。
ベースキャンプに来た活動家が、シェルパに「ストライキに立ち上がれ!」と
呼びかける場面がくる。その後にラッセルが心配そうに見ているカットが入る。
👟 👟 👟
この話をしているとき、ラッセルは実に悲しそうだった。
シェルパの映画が上映されてから、ラッセルには、見知らぬ人から、日に数通メールが入るそうだ。どれも、お前は最低だとか、世界一の強欲野郎だとか、こんなひどい人は見たことがないだとか。
会ったこともない人からの、罵倒のメールの数々。
そのメールに、いちいち、彼は事実を伝えるための返信をしているそうだ。それはそれは、悲しい努力だ。
観客の殆どは、もちろん、複雑な背景なんて知らない。
山岳地帯の活動家達が、地方に振りまく恐怖も。
ラッセル達がシェルパに支援を積み重ね、感謝をされてきたことも。
ラッセルがシェルパの仕事を認め、最も高い給料を払ってきたことも。
その給料を安くしろと、ネパールのオペレーターに陰で文句をいわれていることも。
知らないからこそ成り立つ、シンプルなストーリー。
フェアではないと思う。
👟 👟 👟
しかし、シェルパのためになるならと最大限協力した映画で、こんな仕打ちにあうとは。。。
撮影の後、映画の監督からは、プルバにもなんの連絡もないそうだ。
プルバはその映画のDVDすら持っていない。
「俺たちは、お前のやってきたことを知ってるよ。
そして、この遠征チームに誇りをもっている」
大したことは言えなかったが、何かラッセルに言ってあげたかった。彼は少し嬉しそうだった。
長い夜を、しんみりと過ごした。