Diary of 5/9-
Summit push
Everest summitEverest summit

Everestキャンプの標高
 EBC 5,200m
 C1 6,000m
 C2 6,400m
 C3(High camp) 7,400m
 C4 7,900m
 Summit 8,848m


5/9 @EBC


Crevasse of Western CWMCrevasse of Western CWM
(5/8) 23:30 起床。天気がいい割には、暖かい夜だ。風は殆どない。

 朝食は軽く食べる。珍しく、スクランブルエッグが出た。
 今まで、卵料理は、目玉焼きかオムレツのどちらかを作っていたのだが、今朝は、グレッグのリクエストで、スクランブルエッグになったのだ。目先が変わって良い。無敵モードの恩恵だ。
 ちょっと和む。


 今日もいい天気だ。エベレストの北陵は風が強いらしいが、我々の側は問題ない。

Ladder climbingLadder climbing
00:30 出発。プジャの祭壇に手を合わせて、キャンプを出ていく。体調はいい。楽に歩けそうだ。

 少しゆっくり目のペースで歩いていく。一度、歩いていたので、地形がよくわかって歩きやすい。

 フットボールフィールドを歩いていた時に、グレッグのヘッドランプが消えた。電池切れだ。彼は替え電池を忘れたので、その場でリッチーに電池をもらい、そのまま替えてもらった。毎度のことだが、皆、おいおいといった表情だ。


 ヤコは少しナーバスになっている。ロープの結び目でカラビナをかけ替える時に手間取り、いらいらしている。寝不足だからか?

 ポップコーンフィールドに入ると、リッチーから、先に行ったらと言われた。私が力が余っているのが分かったのだろう。先に登り始めた。2~3分後には、皆が見えなくなった。

 👟 👟 👟 

04:45 快調に登ってIcefallの上に着く。そのまま30分ほど待った。ドクターのトレイシーは到着したが、他のメンバーは来ないので、C2へ出発する。

 知り合いのシェルパ達が下ってくるのとすれ違う。ニマ、ウルケン、フラ達だ。

 C1からC2の間は、風はなかったが寒い。早い時間だからか。
 やっぱり、C2は、近くに見えて遠い。なかなか着かない。

C2 in the snowingC2 in the snowing
08:30 C2に到着。止まると寒い。早速、ダウンスーツに着替えて、皆を待つ。

 トレイシーの後には、グレッグが到着した。彼はお爺さんだけど、野生の本能で生きていて元気だ。

 今日は寝て暮らす。これから、降りるまでは、ヤコと同じテントだ。


20:00 消灯。雪が降っている。

5/10 @C2


Richie @ C2 diningRichie @C2 dining

08:00 昨晩の雪もあがり、天気が良くなった。
 テントの中は、湿気の露でいっぱいになり、雨のように滴たってきた。耐えられず起きる。

 ディスカバリーの撮影隊のジョーは、ダイニングテントに寝ていた。同テントのグレッグのいびきに耐えられなかったらしい。

 今日は、天日干しをして明日の支度だ。

 ディスカバリーチャネルは我々の登頂の記録と共に、レスキューの状況を撮影している。
 今日もC3から、レスキューの依頼が出ていた。人が多いので、きりがない。撮影のチャンスも多い。ディスカバリーは目の付け所がいいのかな。

20:05 消灯。71%/73bpm。まあまあかな。0時前位までKindleを読む。

5/11 @C2


Lotseface - lower partLotseface - lower part
05:15 起床。
06:30 出発。

 雪明けの天気。ローツェフェイスの下に小さな雪崩が起きた。手前で少し待って、安全を確認する。
 

 今日は荷物が重い。そして、少しゆっくり歩きすぎ。暑い。
 前回より雪がついて、今回の斜面は少し歩きやすい。しかし、息が切れる。
 
C3 - photo by JacoC3 - photo by Jaco
 午後から、雪が降ってきた。C3に到着。
 今日は、遠征中、最高に疲れた日だ。

19:00 消灯。

5/12 @C3


Route to Yellow bandRoute to Yellow band

 5時ごろから、起きたり寝たりを繰り返している。
 朝飯は味噌汁とチョコ。なんか、これが落ち着くのだ。

09:30 出発。日の光を浴びたローツェフェイスが美しい。

Yellow bandYellow band
 イエローバンドの下まで、斜行してトラバース気味に登っていく。
 イエローバンドは、古代の地層からできた岩盤帯だ。黄色と言うより、クリーム色だが。
 岩の基部につくと、そこから弱点をついて登る。岩と雪のミックスクライミングで、15mくらいの壁を乗り越すのだ。

Straight upStraight up
 多少、力技も含めて壁を乗り切ると、そこからは、長い直登でローツェ山頂への分岐まで登る。この時間は、日に照らされて、いよいよ暑くなってくる。

Looking down LotsefaceLooking down Lotseface
 遠くに、ジェネバ・スパーが見える。サウスコルから伸びている稜線だ。この稜線に向かって、大トラバースのルートが続いている。長い長いルートが、大きくコの字型を描いて、稜線直下まで続いている。

 そこからは、稜線上まで急登のルートだ。60度くらいの傾斜だろうか。凍っている上に、すれ違うのが難しいくらい狭い。


 先に歩いている人は少ない。7-8人くらいか。先を見ると、ジェネバ・スパーのところで、スローな登山者がいるらしい。人があまりいないのに、詰まっている。そこまで快調に歩いて行った。

 ジェネバスパーにつくと、再度、詰まっていた。また、スローな登山者が出たらしい。しかし5分くらいで、普通のペースになる。

 稜線から、サウスコルまでは、再びトラバースルートだ。30分くらいの歩きで、C4に着く。

Everest from C4Everest from C4 - photo by Tracy
 トラバースルートに入ると直ぐに、スローな男女登山者に会った。日本メーカーのザックなので、日本人だろうか。古い山男っぽい雰囲気だ。ただ、狭い道なのに大変遅い。そして、道を譲らないくらい集中している、困ったちゃんなのだが...
 なんとか、抜かさせてもらった。

 
15:00 C4に着く。お茶を飲む。落ち着いた。
 ここは、デスゾーンです。何気につぶやくジョークも死んでいる。
 

C4C4 photo by Jaco
 夕食はカレーヌードルにした。
 軽くで十分。

18:40 消灯



5/13 @C4(7,900m)


Lotse from Everest summitLotse from Everest summit

00:05 起床。同じテントのヤコが起きないので起こす。

 また、みそ汁の朝食。ベスパとチョコも。


01:15 出発。-5℃くらいか。風もなく、暖かい。

 最初に、サウスコルの氷の雪原を横切る。1994年の大量遭難で皆がさまよった場所だ。なだらかに傾いた雪原は、リング・ワンダリングが起きやすい。視界が悪いと、ぐるぐる、いつまでも、回ってしまうのだ。日本だと、八甲田山とか、千畳敷の浄土乗越とかの地形だ。

 そして急登が始まる。60度くらいか。少し雪がついているので、歩きやすい。
 長い登りだ。星がまたたく。あまりに暗くて、山影と空の境目はわからない。
 上のほうに、少しヘッドライトが見える。昨晩のうちに出発した隊だ。でも、なかなか進んでないようだ。だんだん近づいてくる。

 酸素マスクが、うまくあってないようだ。外気が入ってこない時がある。苦しくなり、途中でマスクをずらして、息をする。それって酸素マスクの意味がある?

 俺は、今日はソナムというシェルパと組んで歩いている。彼とは昨年のK2でも一緒だった。
 あまり疲れないように歩いた。今日は、長丁場だ。しかし、ソナムは、シェルパペースで歩こうと言う。先頭に追い付くと、ペースが落ち着いた。

 👟 👟 👟 

バルコニーについた。8,400mの標高、頂上までの間のチェックポイント1と言ったところか。我々の先を歩いていたアジアントレッキングの隊は、ここでばてて、休んでいた。
 2-3分休んで、また歩き始める。

Photo by GregPhoto by Greg

 バルコニーから南陵までは、更に急な傾斜になっている。雪がついていなければ、つらい登りだっただろう。
 途中、今度はジャケットグローブの隊がいた。彼らのヘッドランプは、これまで見えなかった。一体、何時に出発したのだ。

 彼らに追いつき、そしてロープから外れて、追い越す。エンジン全開で、彼らの横を登るのだ。ここはつらい処だが、いつまでも彼らの後ろでトロトロはしていられない。

 4時過ぎから、雪が降ってきた。風も強くなる。10m/sくらい。時々20m/sになる。厳しい天気となった。
 
 マスクも更に調子が悪い。息の湿気が凍ってきた。
 マスクをずらすと、息がゴーグルにもかかり、凍り付く。視界がぼんやりとしている。やがて、真っ白になってきた。ゴーグルを拭いても、何も変わらない。強風でゴーグルを外すわけにもいかない。
 吹雪が強くなってきた。顔に吹き付けてくる。頬は凍傷気味だ。しかし息が苦しいので、バフで顔を覆うわけにもいかない。いやいやいや、大丈夫か?

 南陵の手前で、アンドレアスが遅れる。かなり疲れているようだ。彼も、大丈夫か。

 👟 👟 👟 

South peakSouth peak
 南陵の頂上で、一旦休む。そこからまた歩くが、ルートが狭くなってきた。
 ラッセルから無線が入る。EBCから見えているらしい。予想よりも悪い天気だったが、なんとか行けそうだと答える。


 ルートの脇に、足を踏み外す。落ちかける。目が見えないので、しょうがないが、そこからのリカバリーも大変だ。やばいやばいやばい。
 再度、足を踏み外した。危ない。そして、めちゃめちゃ、疲れる。

 もう一度、ここで止まってリカバリーをする。荷物を下ろし、ゴーグルを洗う。マスクについた氷を溶かし、強く顔に押し付ける設定にする。

Hilary step - photo by TracyHilary step - photo by Tracy
 やっと息ができる。そして目が見える。
 俺、復活!って感じだ。
 そうなると、ヒラリーステップは、楽勝だった。丹沢の尾根を歩いているようだ。

 そして、頂上が目に入る。やっと盛り上がってきた。5分後には、あそこだ!
 風も雪も収まってきたようだ。


Summit viewSummit view
 頂上は、シンプルなチョルテンの旗が飾ってあった。ラマ教の経典もおいてある。
 そして、遥か彼方まで、チベット高原が広がっている。
 ここからの景色は雄大だ。


 👟 👟 👟 

Sonam and ISonam and I
 写真をとる。自分と、ソナムと。他のシェルパもやってきた。
 30分くらいゆっくりしてから、降り始める。
 だんだん、空も晴れてきた。

Hilary step - photo by RIchieHilary step - photo by RIchie
 ヒラリーステップで、上ってきたジャッケド・グローブの隊とすれ違う。かなり消耗しているようだった。

Lotse from EverestLotse from Everest

 向かいの山は、ローツェだ。頂上へのクーロワールがよく見える。天空に続く岩溝だ。

 南陵までもどると、ドクターのトレイシーが倒れこんで動けなくなった。ずっと無理をしてきたらしい。ここは、ヘリを呼べる高さを越えている。だましだまし降りるしかない。
 
 シェルパが彼女の荷物を運ぶことにした。それでも、彼女は、なんとかその日うちにC2まで降りることが出来た。

 
Steep slopeSteep slope
 南陵から下の急坂はアームラップで降りる。大下りのルートだ。足にくる。
 
 そしてまた、バルコニーで休む。飲み物で生きた心地がした。
 そこには、途中で登るのを諦めたらしい、アジアントレッキングのメンバーがいた。
 昨年、色々とやらかした問題児だったジョエルだ。まさか此処で会うとは。そして、去年は自信たっぷりだった彼が登れなかったとは。

 彼らを抜かしてC4まで下りると、テントで昼寝をした。そしてまた下る。

 ジェネバスパーの狭い急坂では、人がゆっくり上ってくる。微妙に途切れない列で、いつまでも降りられない。
 稜線上で降りるタイミングを待っていたら、20分近く経ってしまった。

 行動食も食べているが、エネルギーはとっくに切れている。
 喉ももからからだ。
 そして暑い、一人旅だ。

 👟 👟 👟 

 イエローバンドの下りでは、8環を使って、懸垂下降をした。今回の遠征では初めてだな。

 C3のあたりで、雪に赤い点々が見える。光の反射で赤い虫が雪の中で光っているように見える。しかし写真をとると赤くない。謎だ。
 少し座って休む。エベレストに登った実感が沸いてくる。

 しかし、長い。南陵から延々とアームラップを続けている。足もがたがただ。
 
Izuishi gloveIzuishi glove
 今回、新兵器として、日本の手袋の専門家に、オーダーメイドで手袋を作ってもらった。暖かく使いやすい。そして、高い耐久性で、ここまでのアームラップをこなしている。いいぞ!

 
Break timeBreak time @the bottom of LF
 ローツェフェイスを降りきって、C2の手前で、再度大休止をした。もう水が無かったので、きれいそうな雪を集めて食べる。冷たくて気持ちいい。

 雪を食べると、結局、土や空気の細菌を取り入れてしまうので、腸内細菌バランスが変わり、下痢気味になるのだが、しょうがない。もう頂上に登ったので強気だ。

 さんざん休んで、日が傾き、寒くなってきた。C2へ戻る。

 アンドレアスは、咳が止まらなくなっただけでなく、指が凍傷にかかった。小指は二倍くらいまで腫れ上がっている。しかし黒くなっていないので、まだ大丈夫なはずだ。

 いろいろあったが、皆、頂上まで登れてよかった。